老いの恩恵 その2 改訂版

老いの恩恵 バイオグラフィーワーク

心と体はひとつ、これは何歳までだろう?

僕が老いを感じたとき

うちの子どもがまだ小さかった頃です。たぶん、僕が50歳前後だったと思います。子どもがうれしそうにやってきて、「お父さん、これすごくいい匂い」と言って、お菓子の包み紙を差し出しました。

僕は「どれどれ」と言いながら、包み紙を手にして匂いをかぎました。

ところが、匂いが分からないのです。匂いを感じることできないのです。

そのとき「あーっ」と思いました。嗅覚の衰えです。老いといえば、体力の衰えや記憶力の衰えなどがありますが、嗅覚=感覚器の衰えもそのひとつです。

「来るべきものがやってきた、確実にやってきた」と思いました。当時の仕事がアロマセラピーだったので、これもどうしようか、と思いました。

ただ、不思議なことに、不安感や困惑はありませんでした。自分の中で老いは自然なものだという思いがありましたし、これはそういうものだと受け入れました。

ただ、このとき確実に老いを実感したことも事実です。

心と体の一体感はいつまで? たぶんそれは40代の始めまで

「心と体はひとつ」と言います。そのことは理解できます。ただ僕の場合、その一体感は40代半ばまででした。

若いころは心と体がひとつでした。実際、僕もそうでした。一般に、心の成熟よりも体が先に成長するため、特に若いころは、体の調子の善し悪しが、そのまま心の状態に影響を与えることもしばしばです。

ところが、40代に入ったころから状況は少しずつ変わり始めます。元気だった30代と比較すると体力と身体能力が低下してくるので、無理がきかなくなります。ただし、既にたくさんの人生経験がありますから、難局が生じても、知恵を使って何とか乗り越えられます。しかし、以前とは何かが違っています。

このころから心と体の一体感が薄れ、心と体が徐々に分かれ始めます。これまで一体であった心と体の感覚にズレや足並みの乱れが生じます。特に体の老いが、心そのもの、自分という存在そのものに影響を与えるようになります。

シュタイナーの7年周期

ドイツの哲学者・思想家のルドルフ・シュタイナーは、7年を単位とする成長の周期=7年周期について述べています。たしかに歯の生え変わり(7歳から)、思春期(14歳前後)など、人間の成長のプロセスを「7」という数の観点からたどると、なるほどと思うことが多々あります。

シュタイナーの活動から生まれたバイオグラフィーワークでは、42歳をひとつの区切りと考えています。42歳は第7・七年期の始まりです。

心と体の一体感のピークが30代だとすると、それ以降一体感は少しずつ揺らぎ始め、42歳前後からは明らかな分離となるでしょう。「分離」と表現しましたが、そしてこれは人間の一生、人生の歩みとしては自然なことです。

そこから先のこと

この心と体の一体感が…というのは、別の表現をするならば「老い」の表面化です。もちろん、これには個人差があります。42歳というのも、一つの傾向でしかありませんし、60代になっても心を体の一体感を感じている方はいらっしゃると思います。

僕自身も「歳をとったな」と感じ始めたのは50代ですし、そろそろ老いと向かい合わねば、と思ったのは60歳前後です。

ただ、このようなことは感覚の濃淡はあったとしても、確実に起きることです。そして「老い」を意識し始めたとき、私たちの前にいくつかの可能性があらわれます。次回はこの可能性について取り上げます。

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