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マッサージの二つの力 体の重さと腕の力
大昔のことです。僕が鍼灸師としての活動を始め、教室でオイルマッサージのクラスを担当していた頃です。
あるところで、僕がゴロリと横になっていると、そのウチの赤ちゃんがハイハイで近づいてきて、ダーっと言いながら、僕の体の上に両手(前足)で乗っかりました。
僕はそのまま赤ちゃんの下にいたのですが、その時なんとも言えない心地良さが全身に広がりました。
この体験は、今でも覚えています。赤ちゃんなので、そんなに重くはないです。だた赤ちゃんの存在だけが(何も加工されていない、ただの重さだけが)、シンプルに僕の体に染み込みました。
このとき、僕は「ああ、そうなんだ」と思いました。
これが、マッサージで「体の重さ」を使うことの大切さなのだ、と思いました。これは腕の力ではない、体の重さです。赤ちゃんですから、特別な意図も目的もなく、ただ好奇心だけで、近づいてきて、ダーっと言いながら、僕の体に乗っかたのです。
これは重さだけが体に染み込む体験です。ついでに言うとこれは重さの量ではなく、重さの質の体験です。赤ちゃんは軽いですから。
マッサージでは力を使います。その力には二つの種類があります。ひとつ目は「体の重さ」です。これはマッサージの土台になる力です。この力が受け手の体とのつながりを築きます。
二つ目は「腕の力」です。腕の力は体の重さの力に意味と方向づけを加えます。土台となった「体の重さ」を加工します。
こんなふうに考えると、最初にあるのは「体の重さ」、つまり赤ちゃんのハイハイのような重さで、その「体の重さ」を加工するために「腕の力」が必要なのだと思います。