床で行う技術の特徴、コツ
床でもロッキングテクニックをやってみましょう
ロッキングテクニックのクラスでは、マッサージテーブルを使って学んでいます。ただ、このテクニックは床でも施術することができます。
初めてマッサージテーブルに横になった方は「すごく寝心地がいい」と喜んでいただけます。そのようなことがあると、マッサージテーブルでの施術は《特別感》があって良いかなと思います。
ただ、僕自身は、床に横たわって施術を受けると、何とも言えない《安心感》を感じます。それは《特別感》というものではなく、当たり前の心地よさ、と言ったら良いのでしょうか。少し大袈裟に言うなら、地球に支えられているような《安心感》です。
もうひとつ大切なことは床の施術の《手軽さ》です。僕は自宅にもマッサージテーブルを用意してあるのですが、ちょっと体に触れてもらいたいな、というときには、わざわざマッサージテーブルを出すよりは、床に横になるスペースを確保した方が簡単です。そのようなわけで、意外と床の技術には需要があります。
ロッキングテクニッククラスで紹介している技術の9割程度は床で行うことができます。そこで今回は床の施術を行う場合の特徴や注意点、ちょっとしたコツなどをご紹介します。最後にオイルマッサージのことにも触れておきました。
1 床の技術では施術者のポジションに厳密さが求められる
マッサージテーブルと床の技術の最大の違いは施術者の《姿勢》です。マッサージテーブルでは立っていますが、床では主に座って施術します。
これは施術者の下肢の使い方の違いです。マッサージテーブルでは下肢を伸ばしているため、施術者の動きには幅があります。足の長さの分だけの自由がある、ということです。それに対して床では主に座っているため施術者は固定されています。それだけ動きは制限されます。
そのため床の技術では、施術者はそのポジションの選択に厳密さが求められます。ここでポジションと言っていることには施術者の《位置》と《向き》と受け手との《距離》が含まれています。
つまり立って施術している場合は、ある程度のポジションのあいまいさが許されるのですが、座って施術する場合は、どこに位置するのか、どちらの方向を向くのか、その際受け手(施術部位)との距離はどのくらいであるのか、ということを厳密に選択する必要があります。
2 床の技術ではマッサージテーブルよりも広いスペースが必要
単純に比較すると床の技術では、マッサージテーブルの場合よりも広い施術スペースが必要です。
マッサージテーブルの場合は、マッサージテーブルの面積分に加え、立った状態で施術者が動くスペースがあれば良いです。それに対して床の技術の場合は、施術者が座る、または膝立ちなどの姿勢に変化が生じるためやや広い面積が必要になります。
以前、僕が教室で床の技術のクラスを行なっていた時には、アウトドア用の銀色マットを横に2枚並べていました。受け手の方が高身長の場合は対角線上に横になっていただきました。そのくらいのスペースが必要です。
3 床に敷くマットにはある程度の厚さが必要
床の素材(板の間、畳)にもよるのですが、床に敷くマットに注意が必要です。なぜならば床で施術する場合には、マッサージテーブルの場合よりも容易に圧が加わりやすいためです。
さらに床の素材が硬い場合は、受け手に不要な刺激が加わる可能性があります。つまり体の一部分、特に肋骨などの骨に近い部分が床の硬さにあたって痛い、という訳です。
マットの厚さについては、もうひとつ考慮すべき点があります。それは施術者の膝の保護です。床の技術では施術者が膝立ち、片膝立ちなど膝で体を支えることがたびたびあります。床が硬いままですと、施術者の膝を痛める可能性があるので、やはり適切なマットの厚さが必要です。
以前の教室では「2」で紹介した銀色マットを3枚重ねて敷いていました。結局、銀色マットは全部で6枚使うことになります。
そしてマットには厚さが必要だからといって、身体が沈み込むほどの厚いマットや布団は避けてください。マットで体が固定されてしまいますから。
4 床の技術でも全身を使います
最初の「1」と関わることですが、床では施術者は座っています。これは床に固定されていると言っても良いでしょう。ロッキングテクニックの技術は、全身を使って波を送ります。手だけで波を送っているように見えても、実は小さく全身を使っているのです。
そこで床の技術の際には、座ったままの状態で全身から波を送ることを心がける必要があります。そのためロッキングテクニックの波を送る際には、ごくごくわずかに腰を浮かしています。たぶん横から見ているだけでは、わからないくらいごくわずかです。
そうすることで波を全身から送ることができます。
5 床の技術で用いる座り方、姿勢
床の技術で用いる主な座り方、姿勢をご紹介します。
座る姿勢は正座、跪座(きざ)、両膝立ち、片膝立ちと、いろいろあります。正座の場合は、両膝を広げた座り方が良いです。両膝を広げると、受け手との距離が縮まることと、正座から両膝立ちに移ることも容易なので機能的です。
跪座とは両膝をつき、足は爪先立ちでかかとの上の腰を降ろした姿勢です。跪座もしばしば用いる姿勢です。
6 オイルマッサージについて
せっかくなので床で行うオイルマッサージについても簡単に取り上げておきます。上記の1から4に加えて次のことを参考にしてください。
その1 ロングストロークはできない、諦めた方が良い
ロングストロークとは手足、背中、そして全身を一筆書きのように連続するストローク(軽擦法)を行うことです。エサレンマッサージの特徴的な技術でもあります。
ロングストロークの場合は、足でステップを使って、施術者が移動しながら行うので、この技術は床の技術のように、座位で体の位置が固定されている場合にはできません。仮に腕を伸ばせばできる、と言っても姿勢が崩れているので、質の良い技術は提供できないでしょう。
解決法は、まずロングストロークは諦めることです。そして代替案として下肢であれば、その中点、つまり膝のあたりに施術者が位置すると辛うじてストロークが可能になります。それ以外は大腿部、下腿部、足部と部分に分けて施術することです。
その2 背中はまたがる、という選択もあり
腰から背中のように横幅のあるところでは、施術者が受け手にまたがって腰から背中にかけてのストロークを行うという選択もあります。
受け手の横に位置してストロークを行うことも可能ですが、施術者の体がやや捻れることになり、場合によっては安定感を損ないます。
そこで思い切って受け手の腰から背中にまたがってストロークを行うと安定感が出てきます。その際には単純にまたがる、という選択と、片膝立ちになるという選択もあります。
片膝立ちの場合は立てた膝の内側と同側の肘を合わせると姿勢に安定感が出ます。
最後に
以上、床で行う技術について述べました。今回は主にロッキングテクニックを想定して説明しましたが、考え方はオイルマッサージであっても他の技術であっても同じです。
マッサージテーブルを使った技術と床の技術の違いを、別の視点で述べるならば、マッサージテーブルでは下の空間を利用することができ、床の技術では上の空間を使うことができます。この違いのそれぞれの技術のなかに上手く反映させることもできます。
それからもうひとつ。床の場合は、床を通して音が響くので、受け手の耳に床からの音が伝わりやすいということもあります。なので当たり前ですが、ドシドシ音を立てて移動することはできません。
日本ではあん摩や指圧のように元々床で行うために発達した技術もありますし、日本人は床での生活に馴染みもあるので、床を施術場所として選択することは自然だと思います。
どうぞ、よろしくお願いいたします。